自分から「左派」とか「ポピュリズム」とか名乗るのはマイナスにならないか。
そうした疑問に、ムフ『左派ポピュリズムのために』はあらかじめ答えています。
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なぜポピュリズムと呼ぶのか?そう名乗ることで何が得られるのか? こうした疑念に対しては、まず、この否定的な響きがヨーロッパに特有のものであると指摘しておきたい。(略)右派ポピュリズムの大きな潮流が現れてきたにもかかわらず、米国ではポピュリズムという用語の前向きな使用法がつねに残ってきた。このことは今日、、バーニー・サンダースの政治が幅広く受け入れられていることからもわかるだろう。彼の戦略は明らかに左派ポピュリズムのそれである。
ムフ『左派ポピュリズムのために』明石書店 二〇一九 一〇九ページ
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……2020年の大統領選にも出るらしいサンダース候補。確かに幅広く受け入れられているようです。ただ日本では、ポピュリズムという語はあまりいい印象を与えないようです。
もう一つの「左派」については。
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「左」と「右」というメタファーはもはや時代遅れであるとする主張もあるが、西欧社会ではいまだそれらが政治的言説において重要な象徴的標識となっている。そのため、これらのメタファーを放棄することは賢明なことではない。対立がもつ政治的な性格を取り戻し、左派の意味をもう一度示すことが必要なのだ。
(一一二ページ)
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……西欧社会ではどうなのか知りませんが、日本語での左翼(あるいはサヨク→パヨク→ブサヨ)はすっかり時代遅れなイメージがしみついています。わざわざマルクス・レーニン主義の色がしみついた旗を立てる必要があるのかと思います。
どうもムフの眼中には西欧(主にイギリス)とアメリカはあっても日本はないようです。近代日本文学研究者が日本語訳で読んでいることなど想像外なのでしょう。
ムフが"a left populism"を訴えるのはいいとして、日本人までが「左派ポピュリズム」に乗っかる必要はないように思います。