核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

幸徳秋水「自殺論」

 大逆事件の人として語られがちな幸徳秋水ですが、それを抜きにした彼独自の思想はいかなるものか。一例を掲げます。

 

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 社会は競争に依て進歩する。優勝劣敗の自然淘汰が行はれるので進歩するものだから、此競争場裡に立つことの出来ない不具者は、サツサと自殺して仕舞ふのが社会全体の為なのだ。

 (略)

 日本に自殺者の多いのは、不健全な人間の多い証拠で、悲しむべきではあるが、左りとて斯る者を強いて生しても仕方がない。今から年々五六万人づゝも自殺者が出来て(引用者注 当時の年間自殺者は七〇〇〇人程度、多い年でも八七〇〇人です)、優等健全な人間ばかり残つたら、日本も大に富強になるであらう。

 (幸徳秋水『長広舌』一九〇二(明治三五)収録。以下『近代日本思想大系 13 幸徳秋水集』筑摩書房 一九七五  一三七頁)

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 当時の秋水にしては珍しく言文一致ですが、問題はそこではなくて。

 丘浅次郎あたりと何の変わりもない、粗雑な社会ダーウィニズムです。彼の「社会主義」なるものが、こうした恵まれない人々への蔑視の上に成り立っていたことは記憶されるべきでしょう。