核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

フロイト『自我とエス』における躁

 バトラー『非暴力の力』一七三~一七四頁にある、

 

 「自己破壊の成功を妨げるための一つの方法は、自我が「事前に躁病に転化することによってこの暴君から身を守る」ことである」

 

 との文章、同書の注にもあったとおり、フロイト『自我とエス』(『フロイト全集18』五四~五五頁)にありました。全集での正確な文章は、自我が「事前に躁に転化することによってこの暴君から身を守らないかぎり(以下略)」。

 というより、躁について『自我とエス』で記述されている箇所はそこぐらいでした。

 バトラーはこの、個人の心の中の「暴君」である超自我から躁病が自我を守る、というフロイトの言を(おそらくは意図的に)集団心理に拡大解釈しているようです。

 しかし、暴力的・攻撃的なうつ病者というのはあまり聞きませんが、躁病のほうは外部・他者に対して攻撃的になり、周囲に迷惑をかけることもあるようです。「躁病のようなもの」が非暴力の力となるというバトラーの論旨には納得できません。