核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

大江健三郎、J=P・サルトルと会う(『ヨーロッパの声・僕自身の声』毎日新聞社 1962 より)

 本来は大江健三郎のインタビュー集『世界の若者たち』を読みたかったのですが、そちらは国会図書館限定で。代わりにこのヨーロッパ旅行記が、ネット上で読めました。

 めあてはもちろん、核兵器関係です。1960年代の大江健三郎は、たとえば東側(共産圏。ソビエト連邦や中国)が行う核実験をどう考えていたのか?以下に、大江の意見とサルトルの発言を引用します。

 

   ※

 核実験そのものが今日の戦争だという論理は、やはり日本人だけの認識であるように思われる。それは第一前提だ。

 サルトルはいう。《実験をおこなったといなとにかかわらず真の軍縮実現に関しては、私の考えでは東側の方がはるかに真剣な意志をもっていると思います。ソビエトの核実験をつうじてそのような意志を見うしなうことがあってはならない》

 これは平和運動家のための原則だ。僕は自分の第一前提をみとめたうえでサルトルに賛成だ。

 (181頁)

   ※

 

 屈折した言い回しではありますが、大江は「核実験そのものが今日の戦争だ」というのは「日本人だけの認識」にすぎないとみとめてしまい、ソビエトの核実験を擁護するサルトルに「賛成」してしまっています。残念ながら。

 この文章に関する限り、大江は内心では核実験そのものに反対と言いたがっていたように読めます。しかし、(題名をもじって言えば)その「大江自身の声」は、大江が尊敬していたというサルトルの「ヨーロッパの声」にかき消されてしまっています。大江が実際に「核実験そのものに反対」と、サルトル相手に堂々と主張することはありませんでした。