ケインズの『貨幣論』も最初のほうだけちらっと読んだのですが、どうも、
「貨幣とは何か」
という問いは、私ごときの手には余るようです。原稿用紙35枚でおさまるとも思えないし。
そもそも私の貨幣への関心の出発点は、谷崎潤一郎の「小さな王国」。沼倉という小学生が紙幣を発行してクラスを支配し、先生まで配下にしてしまう短編です。なので、問題意識を、
「紙幣とは何か」
にしぼろうと思います。
金銀財宝のたぐいだって、実際に「役に立つ」ものかというと疑問はありますが、紙幣というやつは特に謎めいています。今話題のMMT(現代貨幣理論)の是非とも直結しています。
「ファウスト 紙幣 MMT」で検索すると、けっこう多くの方々がすでに言及しており、中にはジョン・ローという人物がファウストのモデルなのではと論じている方もいました。このブログでも前に触れましたが、スコットランドから革命前のフランスに渡って財政を担当し、紙幣の大量発行で財政危機を乗り切ったものの、バブルがはじけて逃げ出したという、まさに実写版ファウスト、リアル沼倉のような人です。
以下は今のところ感想ですが、MMTの前提である貨幣法制説、つまり貨幣は国の権力が保証するものなので、紙でも電子情報でもなんでもいいという説は、限界があるように思うのです。
「小さな王国」でいうと、沼倉紙幣は先生の手に渡り、さらに先生が一般のお店に間違えて出してしまった時点でその無価値ぶりを露呈しました。しゃぼん玉が物体にふれるとはじけるように、大量に発行された紙幣は、システムの外部にふれると神通力を失う宿命なのではないかと。
そんなわけで、今のところ私はMMTに懐疑的です。