核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

ボルヘス 「バベルの図書館」(『集英社世界の文学9 ボルヘス』 1978収録)

 1980年代ごろ、南米文学のちょっとしたブームがありました。筒井康隆からポロロッカ(さかのぼり現象)した私も、わからないなりにコルタサルだのカルペンティエールだのを読みふけったものです。中でも、今回ご紹介する、「バベルの図書館」のホルヘ・ルイス・ボルヘスはお気に入りの作家です。
 
 六角形の図書室。壁のうち五辺は本棚で、残りの一辺はホールに通じています。ホールには上下に続く螺旋階段と鏡とトイレと立ち寝部屋があります。そしてホールを抜けると、そこにはまた同じ形の図書室があります。 
 上下の階段を昇り降りしても、そこにもやっぱり図書室が…。
 要するに、どこまで行っても図書室しかないのです。この巨大図書館で生まれ育った主人公は、この世界の秘密を説明してくれる本を求めて、図書館遍歴の旅に出るのですが…。
 
 とりあえず解明できたこと。本棚は各部屋に五つ。一棚32冊。一冊は410ページ。各ページは80字×40行。
 文字はすべて25種の記号(アルファベット22とピリオド、コンマ、文字仕切り)からなり(つまり、漢字とかアラビア文字の本はないわけです)、まったく同じ本は一冊たりとも発見されていません。
 
 主人公と同じように、伝説を捜し求める他の住人も存在します。過去と未来のすべてを記した「弁明と予言の本」。魔力のある本を所蔵する「真紅の六角形」。すべての本の概要を精読した「本の人」。
 しかし、実際に意味のある本が見つかることはまずありません。なにしろ図書館は無限と思えるほど広く、すべての本は25×80×40×410=32800000種の順列組み合わせからなり、一室の本は5×32=160冊。
 32800000÷160=205000室の図書室をすべて見て回れば、計算上は無限ではないわけですが、全ページ「MCV」しか書いてない本だの、「調髪した雷鳴」だの、「石膏の痙攣」だの意味不明な本が大多数なわけで、主人公はついに探索の旅に絶望し、この遺書を書き残して投身自殺を企てます。
 「わたしを読んでいるきみよ、きみはわたしの言葉を理解しているという確信があるかね?」
 
 はたして私は理解しているんでしょうか。
 確実にいえることは、順列組み合わせで生み出される文字の羅列と、人間の手で書かれた(あるいはタイピングされた)は違うということです。巨大図書館が所蔵する32800000冊の本がすべて無意味だったとしても、主人公が最後に書き残した遺書だけは意味がある、と私は考えます(たとえ32800000冊の中に、それとまったく同じ文字列を含む本があったとしても)。
 読書感想文レベルの印象批評で申し訳ありませんが、とりあえず私は無神論者ではあっても、構造主義者でもポスト構造主義者でもニヒリストでもない、ということだけは確信しています。
 もし私がこの図書館の住人だったら…各部屋にトイレがあるのはありがたいですね。図書館に長居するとおなかが鳴る体質なので。
 すっきりしたら、「核兵器および通常兵器の廃絶」という本を探す旅に出るとしますか(この図書館にも殺し合いはあるのです)。
 
 「そしてもし地獄なら、僕が行っていいところだ」
 チェスタトン 『木曜の男』 創元推理文庫 1960より