核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

「われわれのためというよりは、むしろ諸君のため」

 高貴にして冷酷、無神論ソフィスト(知者)にして独裁者、そして節制を説くブタ。
 紀元前403年アテナイ、民意を無視した革命を続ける最晩年のクリティアスの発言を紹介します。
 クセノフォンの『ヘレニカ』(ギリシア史)第二巻第四章。バルバロイ様の訳を引用させていただきます。
 
 [1]
 かくのごとくにして、テラメネスは刑死した。「三十人」は、もはや恐れることなく僭主支配できるようになったので、名簿に外れた者たちに市域に立ち入ることを禁じ、領土から追い払い、かくて、自分たちと友たちが彼らの農地を取得した。
 
 ・・・「名簿」というのはクリティアス政権に従順とみなされた三千人のこと。三十人政権内の穏健派だったテラメネスが、この名簿制に反対して粛清されたことは以前に述べました。この圧制に、テバイ(矢野龍渓経国美談』の舞台ですね)に亡命していたトラシュブウロスの一党が反旗をひるがえします。
 
 [8]
 こういう次第で、「三十人」は、もはや自分たちの政権は安泰ではないと確信して、 エレウシスを我がものにして、必要とあらば自分たちの避難所にしようと望んだ。そこで、騎兵隊に下知して、 クリティアスその他の「三十人」は、エレウシスに進攻した。(略。エレウシス侵攻の成功後)
  [9]
 次の日、名簿登録されている重装歩兵たち、および、その他の騎兵たちを オデイオンに召集した。そしてクリティアスが立って発言した。
 「われわれが」と彼は言った、「おお、諸君、この国制をこしらえあげんとするは、われわれのためというよりは、むしろ諸君のためなのである。それゆえ、諸君のなすべきは、名誉に与るのとまったく同様に、危難にも与ることである。それゆえ、この捕縛されたエレウシス人たちに有罪票決が下されねばならない。諸君がわれわれと同じことで大胆ともなり恐怖もするためである」と。そして、彼は所定の場所を示して、そこにはっきり見えるように票を投ずることを命じた。

 
 ・・・「この国制をこしらえあげんとするは、われわれのためというよりは、むしろ諸君のため」。
 たぶん、嘘ではないのでしょう。
 はとこのプラトンがそうであったように、彼は彼なりの「理想国」のヴィジョンを持っていたにちがいありません。