松野翠 「龍渓氏の『新社会』」上下 『毎日新聞』 一九〇二(明治三五)年七月九・一〇日
(上)
龍渓先生の名は、余の久しく記臆する所、未だ謦咳に接するの機に会せざるを憾となせり、頃日先生『新社会』の新著あり、一本を贈られて且つ批評を求めらる、(略)
『新社会』は「急進的社会主義者矢野龍渓を日本に表白せり、改進党の領袖、宮内官吏支那公使等の歴史を有し、頭脳透明、識見卓抜を以て名ある龍渓先生にして、公々然社会主義の主張家たることを発表す、社会主義を蛇蝎視する政府及び国民に取りて(あに)一大打撃に非ずや(略)
(下)
社会主義の実行せらるゝ時は是れ君主政治滅亡の時ならざるべからず、然らば則ち我が万世一系の皇室を如何にせん(略)著者が描きたる新社会は『帝国』にして、又た一種の『貴族』をも保存せり、曰く社会主義の実行は帝国に於ても之を見るを得るなりと(略)
社会主義は則ち世界主義なり、(略)而して著者の苦心は一国家の範囲に於て孤独に之を実行するの方案に在り、故に著者は陸海軍の保存をも承認せざるべからず、帝国貴族の存在をも承認せざるべからず、(略)誠に以て惜むべしとなすなり」
・・・なんでこんな面白いやつに寄贈したんだ龍渓。
軍備撤廃・無教会・国体否定(運動会のことじゃないですよ)のトリプル役満、松野翠(木下尚江)についてはいずれまた。