核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

矢野龍渓のソ連批判

 日本の初期社会主義を代表するとされる矢野龍渓ですが、マルクス・レーニン主義を認めてはいませんでした。ロシア革命から間もない1920年。

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 今の儘で進むならば、ソヴエート政府は必ず崩壊するであらう。(略)生産部面が劣悪である結果、幾何もなく生産の不足を来し、同胞をして窮乏に喘がしめ、その極は社会に怨嗟の声を漲らせ、それがためにソヴエート政府は遂に倒されざるを得ない。
 『東京日日新聞』一九二〇(大正九)年十月十二日 引用は小栗又一編『龍渓矢野文雄君伝』一九三〇(昭和五)年 による
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 ソビエト連邦(略してソ連)という国の問題を的確に言いあててはいます。
 ただ龍渓が読めなかったのは、帝政時代をはるかに上回る「生産の不足」「同胞の窮乏」「社会の怨嗟」にも関わらず、ソビエト政府が崩壊するには70年の歳月を要したという点です。これは龍渓が悪いというより、ソビエト政府が想像を絶するほど非人道的だったのです。
 バートランド・ラッセル(私がひそかに尊敬する哲学者です)やアンドレジード(ひそかに気になっている作家です。尊敬とまではいかないけど)といった良心的な知識人は早くからソ連の実態を告発していたのですが、マルクス主義者たちは彼らを資本主義の手先よばわりして黙殺してきました。晩年の堺利彦でさえ例外ではありません。
 いずれ博士論文がらみの問題になんらかの決着がついたら、私なりに「なぜマルクスは間違ったのか」を書きたいものです。