『明治維新論』ではなく、『幕府衰亡論』であることにご注目ください。鳥羽伏見の戦いの直後、最後の将軍徳川慶喜に大阪城に置いてけぼりにされた、一幕臣の視点からの幕末史です。
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幕府の士大夫中には仏国(引用者注 ナポレオン三世治下のフランス)の応援に依頼しその兵力を借りて以て薩長其他を平定するの議を首唱(略)する者もありき。(略)前将軍家(引用者注 慶喜)は断乎として斯る邪議を退け、一意に恭順を表して動き玉はざりき。其一身の生命を犠牲にし、徳川氏の存亡を犠牲にして専ら国家の幸福と国民の安寧を望まれたるは、決して尋常の思想に非ざること得て知るべきなり。(略)明将軍と認めらるべきの人に非ずや。
福地桜痴 『幕府衰亡論』 1892(明治25) 『明治文学全集 11 福地桜痴集』 筑摩書房 1966(昭和41) 201ページ)
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・・・日本の歴史始まって以来、国民の安寧のために一身を(桜痴本人含む家臣もですけど)犠牲にした支配者は徳川慶喜ただ一人。ゆえに源頼朝や徳川家康よりも偉大である。それが『幕府衰亡論』の結論です。日本はもちろん、人類の歴史もその逆ばっかですから。