核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

廣川洋一 『ソクラテス以前の哲学者』 講談社学術文庫 1997 ヘラクレイトス断片

 もう一冊、『世界文学大系63 ギリシア思想家集』(田中美知太郎他訳 筑摩書房 昭和40)という本も借りましたが、収録されているヘラクレイトス断片の内容はほぼ同じでした(筑摩版は断片130~138を追加)。とりあえず廣川訳の断片をいくつか引用します。

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 24 戦死者は、神も人も敬う。
 25 大いなる死(モロス)は、大いなる分け前(モイラ)に与る。
 33 ただ一人の意思に従うこともまた法である。
 42 ホメロスは競技会から追放されむち(たけかんむりに台)打たれるにふさわしい。アルキロコスもまた同じ。
 53 戦いは万物の父であり、万物の王である。それゆえ、このもの(戦い)があるものを神々として、他のあるものを人間として示現させ、またあるものを奴隷となし、他の者を自由人となしたのだ。
 121 エペソスの、一人前になった者はみな、首を縊って死んだほうがいい。
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 ・・・ヘラクレイトスが実にしばしば言及する「戦い」というのが自然現象のたとえではなく、人間どうしの戦争のことをさしていることは、「24」「53」から明らかです。偽作説もある断片136には、「戦死者のたましいの方が、病死者のたましいよりも清い」と確言されています。
 まあ、「6 太陽は日々に新しい」とか、「55 なんであれ、見たり、聞いたり、知覚できるものを、この私は、重くみる」といった、科学的といえそうな言葉もあります。
 しかし、基調にあるのは祖国エペソスの大衆への憎悪であり、戦争そのものへの礼賛です。後世のアリストパネスはもちろん、「42」で罵っているホメロスに比べても、明らかに劣っています。
 最高の家柄に生まれながら、人々に貢献しない自然学にうつつをぬかし、他人に名誉の戦死を強要しながら、自分だけは長寿をまっとうした(ヘラクレイトス自身の死因は病死だそうです)、まさに亡国の暗君と呼ばれるにふさわしい人間。イオニアの哲学者が全員こんなのではないと思いたいところです。