核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

小林秀雄の潜水艦撃沈発言について

 2012年5月24日の当ブログでとりあげた、「鼎談 海軍精神の探究」 『大洋』1942(昭和17)年5月号に、小林秀雄の「この間日本の輸送船が潜水艦を沈めましたね」という発言がありました(http://blogs.yahoo.co.jp/fktouc18411906/archive/2012/05/24)。
 気になって、木俣滋郎『潜水艦攻撃―日本軍が撃沈破した連合軍潜水艦』(光人社NF文庫 2000)という本を調べたところ、上記対談の日付(1942年4月6日)までに、「日本の輸送船が潜水艦を沈めた」という事実はありませんでした。
 大本営が嘘の発表をしたのでは。そう思い、『朝日新聞』の1941年12月(開戦時)から翌年4月までの縮刷版も見たのですが、やはりありませんでした。「我が海鷲が敵機○機撃墜」とか「独軍が連合軍の潜水艦を撃沈」といった、もっと些細な戦果の記述はけっこうあるのに。
 ただ、輸送船が潜水艦を沈めた戦例は、この対談の「後」に起こっています。
 
    ※
 ⑫グルニオン(米)/一九四二年七月三十一日
 〈特設運送艦鹿野丸の砲撃による〉
 (略 鹿野丸に)「グルニオン」は浮上して甲板上の一二・七センチ砲でとどめを刺そうとした。海面の具合で司令塔の上方と思われる部分にさざなみが立ちはじめた。これを狙って鹿野丸の八センチ砲が火を噴いた。(略)
 太平洋戦争勃発時から一二隻目の戦果は、なんと貨物船の小さな八センチ砲による手柄だったのだ。特設駆潜艇などを除くと、貨物船が撃沈した潜水艦は戦時中たった二隻、一隻がこの鹿野丸であり、他は一年二ヶ月後、北安丸による「グレイリング」撃沈だった。
 (木俣滋郎『潜水艦攻撃―日本軍が撃沈破した連合軍潜水艦』(光人社NF文庫 2000 46~48ページ)
    ※
 
 これは大本営発表ではなく、米海軍も撃沈と認めています。 
 こういう珍しいケースもあるから、頭から疑ってはいけないのです。
 とはいえ、小林秀雄の発言が嘘だったことに変わりはありません。