核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

自爆美に酔いしれる北原白秋

 たとえば、「九軍神」という詩があります。

 

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 ああ、あの特別攻撃隊

 つひにかへらぬあの五隻。

 (『北原白秋全集28 童謡集4』三三八頁)

   ※

 

 この時期にはまだ「神風特攻隊」とは呼称していませんが、自爆を前提とした小型潜水艇の出撃です。なんで五隻なのに九軍神かというと、一名は心ならずも捕虜となったわけですね。その方も決死の覚悟で出撃したはずなのですが、北原白秋をはじめとする、安全な場所にいる軍国主義者たちは、自爆できなかった彼を明白に差別します。

 また、「クヮンタン沖の思ひ出」という詩もあります。

 

   ※

 ほら、煙突のまん中へ、

 突つこむ姿勢、急降下、

 あの猛練習あつてこそ、

 必死に遂げた体あたり。

 (三四一頁)

   ※

 

 日本航空部隊が英国の二戦艦を撃沈した、いわゆるマレー沖海戦の詩です。ウィキペディアによれば(いずれ裏をとります)、日本軍の被害は航空機撃墜3機で、体当たり攻撃など行われていないとのことです。

 ありもしない自爆攻撃を詠うほど、北原は自爆美に酔っていたのでしょう。

 「「自爆」といふ言葉を聞いた時、僕の心臓は一塊の火となつて落ちて行つた」(「言葉」三四五頁)とある通りです。

 もっとも、北原白秋が爆発するわけではないので、正確に表現するならば、「安全な場所から味方に自爆を強要して興奮する心理」というべきでしょう。

 こういう、味方をムダに死なせる作戦に興奮してしまう心理というのは、北原に限ったことではありません。小林秀雄河上徹太郎が、海軍大佐平出英夫と行った下記の鼎談でも、「日本独特の自爆心理」と題して、真珠湾攻撃での航空機自爆攻撃を讃えています。

 

 別紙資料3 平出英夫 小林秀雄 河上徹太郎「鼎談 海軍精神の探究」 - 核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

 

 戦争で敵を殺すのも、味方に敵を殺せと強要するのも、むろん悪いことです。しかし、それ以上の罪悪があるとすれば、戦略・戦術上意味のない死を味方に命令し、それでもって自己陶酔を味わうことです。北原・平出の言動はまさにそれです。