核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

柄谷行人 『哲学の起源』 岩波書店 2012

 17世紀のデカルトからはだいぶ離れた、紀元前6~5世紀のギリシアのお話です。
 ギリシアといってもアテネではなくイオニア。デモクラシー(民主主義)ではなくイソノミア(無支配)。それが本書の主題です。
 私としては、ろくに資料の残ってないイオニアピタゴラスデモクリトスでも断片だけなのです)よりも、柄谷がイソノミアの別の事例としてあげている、10世紀から13世紀のアイスランドに興味があります。
 
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 ここには、独立自営農民による自治的社会があった。君主も中央政府も軍もなく、すべてが農民の集会によって決定された。キリスト教会はあったが、他の地域と違って、司祭は聖職者的な地位には立たず、またほとんど妻帯していた。あらゆる意味で、階級的不平等や支配が存在しなかったのである。したがって、ここにイソノミアが存在したといってよい。
 (44ページ)
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 同時代の中世ヨーロッパや、平安・鎌倉時代の日本と比べても、信じがたい話です。1262年のデンマークによる征服以前のアイスランドについて、自分なりに調べてみる必要がありそうです。特に「軍もなく」の実態は。
 イオニアびいきのあまり、アテネの民主主義を不当におとしめている印象はあります(アテネは資料が大量に残されているぶん、悪い面が目立つのです)。
 その一方、柄谷が思い描くイソノミア像が、本書で批判されているポパーアーレントとどう違うのか?が明らかになっていない感もあります。
 が、『可能なるコミュニズム』以降の柄谷行人の著作では、ずばぬけて読みがいがありました。9世紀以降のイスラム教徒に進化論思想があったこと(224ページ)など、勉強になる一冊です。