核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

デモクリトス断片その2 廣川洋一 『ソクラテス以前の哲学者』より

 何回やってもエビルプリーストが倒せないので、イオニア哲学に話題を変えてみます。原子論の完成者デモクリトス(紀元前470年生まれ。全盛期は前420年頃)。ある意味タイムリーなお人。なお、原子論の創始者はレウキッポス(紀元前435年頃)だそうです。
 ソクラテスとほぼ同時代の人であり、断片116に「私はアテナイへやって来たが、誰も私をそれと知る者はいなかった」とあります。もしかしたらソクラテスやクリティアスやアルキビアデスやアリストパネスとも会ってる可能性あり。
 デモクリトス思想のキーワードは、「快活」(エウテュミエ)です。「快活」とは快楽の追求ではなく、むしろその逆。現にここにあるもので心楽しく過ごすこと(断片189~191より)。小は原子から大は宇宙、そして「小宇宙(ミクロコスモス)としての人間」(断片34)に至るまで、ぶれの少ない安定した状態にあることこそ善である、というのがデモクリトスの倫理です。彼が自然哲学の枠におさまる人物ではないことがわかります。
 以前にも断片をいくつか紹介しましたが(民主制擁護論など)、あらためてこれはと思うのを引用します。かっこ内は私の感想。

  ※
 21 神的な素質をもつホメロスは、多種多様な言葉の秩序ある構成(コスモス)を築きあげた。
ヘラクレイトスとは逆の評価。なお私がホメロスをどれほど尊敬しているかはいずれ語ります)

 38 不正行為を阻止することは立派である。だがもし阻止できないなら、(すくなくとも)不正行為に加わってはならない。
(そういう局面は多いのです。阻止できるにこしたことはないし、次は絶対にそうするつもりですけど)

 49 劣った人に支配されることは、つらいことだ。
(苦労してるんだろうな。ボンボンのヘラクレイトスと違って。わかります)

 52 自分を知者だと思い込んでいる人に忠告しても無益なことだ。
(私は一応は忠告する主義です。今はあきらめた人が大半のようですね)

 107a 人間たるもの、人の不幸を笑うことなく、悲しむのがふさわしい。
(ごもっとも。たとえ敵の不幸であってもです)

 154 私たち人間は、最も重要なことがらについて、動物たちの生徒なのだ。織る技術や修繕術の点では蜘蛛の、建築については燕の、物真似によって歌をうたう点では声美しいものども、すなわち白鳥や夜鳴鶯の生徒なのだ。
(メルヘンではなく、古代人の実感のこもった言葉だと思います。なお、私はブタの生徒のつもりです)

 237 戦好きだということは、どれもみな愚かしい。それというのも、敵の不利益には目を向けるが、自分の利益を見ないからだ。
(これも、戦死者を礼賛するヘラクレイトスには言えない言葉です)

 249 内戦は双方にとって禍いである。勝利者にとっても敗北者にとっても、破滅であることに変わりはないのだ。
(平和主義への記念すべき一歩。まだ内戦限定ですけど)
   ※

 ほかにも引用したい言葉は多いのですが、これだけでも、デモクリトスの豊かな人間性と、民主・平和への志向は伝わったかと思います。女性や奴隷やブタをさげすむ断片も残念ながらありますけど、少なくとも大衆嫌いで戦争好きなヘラクレイトスと、「イオニア自然哲学者」でひとくくりにしてはいけない人なのは確かです。 
 柄谷行人氏に対しても、このブログをお読みのみなさまにも訴えたいことがあります。
 「この人はイオニア人だからいい、あの人はアテナイ人だからだめ」というような、出身地で人間の価値をはかるような真似はしないでください。私だって、武田邦彦氏やなんかと「名大関係者」で一緒にされるのは心外です。