河合栄治郎の「混沌たる思想界」の半年前に出た、土田杏村の時事論文です。
直接に河合を名指し批判してはいないのですが、「自由主義」への批判には力を入れており、読み比べる価値はあると判断しました。
ネット上でも読めますが、今回の引用は、『近代日本思想大系 35 昭和思想集Ⅰ』(筑摩書房 1974)によりました。
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河合がよりどころとした「自由主義」を、土田は明確に否定しています。「明確」とはいっても「明晰」ではなく、「古い」ということだけが論拠です。
残る二つのテーマ「転向没落問題」と「戦争論」について。前者は佐野・鍋山の共同声明を「論理のガツシリしたもの」と呼び、その××(伏字。「天皇」)制擁護や戦争弁護論や大アジア主義を、「何としても獄中の産物」と訝りつつも、「私自身ほぼそれに似た考へを持つてゐる」と同意しています。
たぶん、こうした論調(天皇制擁護、戦争弁護、自由主義批判)は特にファッショ的というわけではなく、当時としてはごく穏健妥当なものだったのでしょう。それゆえに、当時の人間ではない私は読んでていらいらするわけです。あらためて穏健妥当ならざる河合栄治郎がなつかしくなるわけです。