核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎『女道楽』(1903(明治36)年刊行)

 『釣道楽』「猟道楽」『酒道楽』に続き『食道楽』に連なる、村井弦斎の「百道楽」シリーズの一つです。このタイトルが岩波文庫から復刊されることはまずないので、近代デジタルライブラリーで読みました。
 誤解をまねきそうな題名ですが、内容はまじめな社会派小説です。
 芸者遊びにあけくれる国会議員、横道曲(よこみちまがる。特定のモデルはなさそうです)。彼が妾とその息子を家に入れたために、平和だった家庭は修羅場と化し、ついには議員の地位も財産も失うにいたる・・・という、あからさまに勧善懲悪な筋立てです。
 弦斎らしいユーモア要素はほとんどなく、SchoolDaysの明治版のごとき救いのない展開がひたすら続きます(Schoolといっても派閥のほうだがな)。
 ただ、ひとり異彩を放つのは、『食道楽』お登和嬢のプロトタイプのような知的女性、「改良芸者」こと玉吉。彼女はもと学校出の秀才なのですが、芸者をやって資金を貯め、不幸な女性たちを救い、自活させる事業を起こしたい、という夢(本人に言わせれば「道楽」)を抱いていることが、結末近くになって明かされます。
 「不幸な女性たち」の実例をこれでもかと見せられてきた読者としては、この結末で少しだけ救われた気になりました。それにしても、いろいろと後味が悪いことに変わりはないので・・・お勧めはできない作品です。