核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

大正平和主義

 ぐぐっても出てこない言葉ですが、「大正平和主義」と呼ぶに値する実態は存在しました。

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 飛行機が天を翔り、潜航艇が海を潜るのも、戦争といふ殺人事業が進歩した事ではありませんか。(略)然らばそれと反対に人類の光明方面から生じた産物で真に人類の誇りとすべきものは何でせう、是れは天地自然の美を発揮すべき、美術とか、文藝とか、音楽とか、人間の平和の生産物でなければなりません、然るに戦争の道具は百年前に比して幾百倍の進歩を称してゐますけれども、美術文藝音楽其他美に関した方面は百年前も同じ事です」
  村井弦斎『小松嶋』(『婦人世界』1918(大正7)年5月号掲載)

 それから陸海軍も近日廃止される筈なんです。世界の人類総てが健全の思想を持つ様に成れば、戦争なんか起こしやうが有りません。既(も)う独逸のカイゼルの様な頭の狂つた人間は絶滅に近寄つて居りますので、軍備を充実させる必用(原文のまま)は有りません。現にカイゼルもあの世界の大戦の後に、未だ懲りないで大野心を起さうとして、種々陰謀を廻らしかけたのですが、星の平和薬を服してから性格が一変して、元の狼が羊に成り、軍国主義を放棄して了(しま)ひました。然(さ)ういふ風に永遠の平和時代が来てゐる訳なんです。
  星一『三十年後』 1918(大正7)年

 火星の人はこう言うた。
「我々の間には戦争ということがありませんし、喧嘩というものがありませんからエネルギーの浪費がありません。みな協力一致してやりますから、北極から砂漠に水を引くくらいのことは実に容易なことです。もちろんこれは必要から生れた協力であるには違いありません。昔は火星でもよく小さいことで戦争もやり、階級争闘もやっておりました。しかし、火星それ自身がだんだん乾きつつあることを知りましたので、ただ争っているうちに火星人種の滅亡も近いことを発見したものですから、戦争を絶対に中止したのです」
   賀川豊彦『空中征服』 1922(大正11)年
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 いずれも小説という形式で、未来や異星への空想の形をとってではありますが、傾向は見出せると思うのです。その長所(二国間の平和にとどまらず、世界規模の軍備廃絶を論じていること)も欠点(明治の平和主義者たちよりも楽観的に過ぎること)も含めて、研究に値すると思います。