核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

開高健『紙の中の戦争』岩波書店(同時代ライブラリー) 一九九六

 以前、「将軍」の典拠としてスタンダール赤と黒』を二か所ほど、あまり自信なさげに引用しましたが、裏付けらしきものが見つかりました。

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 (穂積中佐の勲章論とは別に)
 個人の犯罪における情熱の質と役を重視した言葉をもスタンダールは述べている。当時の小学校教師の上等兵スタンダールを読んでいたかどうかは察するすべもないし、たとえ読もうが読むまいが、戦争を膚で感ずる経験を持った男ならスタンダールでなくてもきっと一度は心のどこかで個人犯罪と集団犯罪のこえようのない落差のことを考えて茫然とする一瞬を抱き、そして個人犯罪にたいしてやすやすと寛容になりたい気持を抱くものである。芥川龍之介スタンダールの述懐に書斎で切られることがあり、それが深かったので、もうひとつのスタンダールの述懐を小学校教師の上等兵に仮託したのではあるまいかと思われる。
 開高健『紙の中の戦争』岩波書店(同時代ライブラリー) 一九九六 四四ページ
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 穂積中佐と江木上等兵が二人とも『赤と黒』を(しかも、かなり近い箇所を)連想するというのも不自然な話なので、これは開高論の後段にあるように、芥川自身のスタンダール体験の産物と見るべきでしょう。
 あまり広がりそうにない話ですみません。