核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

優しい顔をした軍国主義

 芥川龍之介「将軍」の手柄の一つは、軍国主義の優しい顔の面を描き出したことにある、と思います。
 軍国主義というものはしばしば軍靴の響きとか、部下を殴る上官とか、反政府主義者を連行していく憲兵という風に、恐ろしい顔の面を強調されがちでして(実際その通りなのですが)、「将軍」はN将軍の人懐こい眼、涙さえ流し「善人なのだ」と部下に思わせる面をも描いています。
 実際にはちっとも優しくも善人でもないことは、捕虜処刑のくだりで明らかでして、いうなればヤクザの手口なわけです。子分がさんざん暴力的におどしつけた後に、兄貴分が「まあまあ、そのへんにしとけや」と出てきて話をつけるというあれ。善良で無力な人間はそれにほだされてしまい、有難がって言いなりになってしまうわけです。
 ありがちな話と思われるかも知れませんが、『戦争に対する戦争』(一九二八。たびたび悪い例に出してすみません)なんかを読む限りでは、軍国主義の恐ろしい顔は描いても、優しい顔は描けていないようです。
 今後復活しかねない軍国主義に抗するためには、その多重性への分析が不可欠であると私は思います。