核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

福地桜痴『仙居の夢』再考

 この作品については十年以上前に書き、博士論文の第一章に収録もしたのですが、ムフをはじめとする民主主義の諸理論を学んだ今の視点で読み直してみたくなりました。

 一八九〇(明治二三)年の第一回衆議院選挙を扱った政治小説なのですが、この作品の特異さは、後半に登場する西藤(さいとう)という怪人物にあります。被選挙権どころか選挙権すら持たない貧民らしいのですが、歌舞伎口調で政治家たちと渡り合い、ついには不正で当選した政治家を辞職させてしまう不思議な存在です。

 私は福地の非暴力という理想を体現した人物と読んだのですが、山田俊治著『福地桜痴』では「壮士の脅迫」で片づけられています。今流行りのポピュリストだとか、いやボナパルティストだファシストだといった批判も、立場によっては可能かも知れません。ともあれ、『仙居の夢』が政治の腐敗を風刺した「だけ」の政治小説でないのは確かです。