一九三二年、アインシュタインとフロイトが戦争についての書簡を交わし、国際連盟から刊行された公開対話、なのですが。
フロイトはこの企画に乗り気ではなく、「アインシュタインとの退屈で不毛な議論」と述べていたと、『フロイト全集20』の解題(三六一頁)に書かれています。
アインシュタイン側の書簡はフロイト全集には収録されていないのですが、フロイト側のアインシュタインあて書簡によると、
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あなたが、戦争という災厄から人間を守るために何ができるのかという問いを提起されたのには意表を突かれました。私にはーほとんど「私たちには」と言ってしまうところでしたーこのような問いに応える権能がないという気がしてひるんだのです。こういったことは政治家たちに任せるべき実践的な課題ではないかと感じたからです。
(「戦争はなぜに」『フロイト全集20』二五七頁)
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・・・・・・政治家に任せておけなんて言ってますけど、フロイトの祖国オーストリアは、第一世界大戦のきっかけとなった国のひとつです。さらに隣国ドイツでは、アドルフなんとかという「政治家」が選挙で大勝し、翌一九三三年には首相になってます。政治家に任せるべきなんて、のんきなこと言ってられる状況じゃないでしょうに。
書簡のこの先の感想は後ほど述べますが、どうもこの著名人二人の対話は、世紀のこんにゃく問答だった気がしてなりません。フロイトが専門外だったからではなく(政治家だって、世界平和の専門家ではないのです)、その不誠実さゆえに。