「山下君、このままだと、あのわっかに激突するんじゃないかね」
「課長、あれは土星の環ですよ。どーせいっつうんですか!」
「…シャレのつもりかね。このシャレにならん状況下で」
「まったくですよ。いくら秘書課のMさんに、『社員旅行は星がきれいな所がいいです☆』とか言われたからって、何も宇宙まで来ることはないじゃないですか。しかも、あんな見るからに怪しい格安旅行代理店で」
「そう言うがな、『お二人様まで無料で下見ができます』という言葉に目がくらんだのは君のほうだぞ」
「だって、最初は大気圏上空をぐるっと一周して帰る予定だったじゃないですか。課長が変なボタンを勝手に押すから、ロケットが急に噴射して…気がついたら木星見えてたし」
「携帯の電波は届かんのかね。明日は大事な会議が」
「日常性に逃避しないでください!届くわけないでしょう」
「などと言っている間に冥王星か。そろそろ晩飯の時間だな。何か食べるものはないのかね」
「宇宙食みたいのは大量にありましたけど、すべて消費期限が切れてました。課長、われわれはもしかしたら、このおんぼろロケットもろとも、体のいいリストラを食らったのでは」
「山下君、たしか大型二種の免許を持ってたな。なんとか宇宙船の進路を地球に戻せないかね」
「?????」
「つまり、どちらかがいったん外に出なきゃダメってことです。課長、そういえばMさんに、スキューバダイビングの資格を持ってるって自慢してましたよね」
「う、資格というのは言葉が過ぎたかな。そもそも海と大宇宙では」
「同じようなもんですよ。海王星だし。はい宇宙服。酸素ボンベもどうぞ。エアロック開きます!」
「さっき放出とか言ってなかったか?わ、山下君、急にハッチを開けるなぁぁぁぁぁ」
「課長が大宇宙の深淵に吸い込まれていく…人類の夢、太陽系突破をなしとげた勇気ある課長。無事地球に帰ったら、このことは社史の1ページに記しておきます…あ、帰ってきた。課長、その肩のタコさんはおみやげですか?」
『ピピピポポポ。ワタシ、タコチガウ。オマエタチ、ミチ、マヨタカ?』
「(なんでフェイタン口調なんだ?)これはこれは、外宇宙の方でしたか。御星の科学力をお借りして、私どもを地球という星に送迎していただけないでしょうか」
「課長、なぜわれわれはいつもこうなんでしょう」
「いいではないか。無事に地球にはかえれたんだし」
「確かに地球ですけどね。あの宇宙人、こんなヤシの木一本しかない無人島にテレポートしないでも」