核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

大江健三郎 「革命女性」 『最後の小説』 講談社文芸文庫 1994 収録

 「大江なんておもしろいもんじゃないからね。長ながやるとこのブログの人気がおちる」
 「いいや、2ページほどやる!」
 くろうは買ってでもするアンタルキダスです。
 
 「革命女性」(レヴォリュショナリ・ウーマン 戯曲・シナリオ草稿)は、『へるめす』1986年12月~1987年6月(第9・10・11号)初出で、サブタイトルは「劇的想像力の方へ」だそうです。さて、ヒカリさんも四国の森の村も封印した、大江健三郎の劇的想像力とは。
 舞台はアンカレッジ国際空港。主人公は30~35歳の娘(娘って歳か?いや、最後まで「娘」としか書いてないもので)。十年前に「冬の山中キャンプで十二名の同志を殺し」た過去を持つ囚人です。
 「われわれの主人公は六〇年代後半・七〇年代はじめの、革命的な学生運動の指導者たちのひとりであった。ヨーロッパでハイジャックを行なった『同志たち』が、永く獄中にあった彼女の身柄について、無条件・即座の釈放要求を政府に働きかけ」たために、彼女はヨーロッパ行きの旅客機に乗せられたのです。
 福田首相(当時)の「一人の生命は地球より重い」の迷言で有名な、1977年のダッカ日航機ハイジャック事件がモデルのようです。
 娘も乗客を人質にとり、空港の一角に篭城します。しかしヨーロッパでハイジャックを起こした「同志たち」が制圧されたために、自暴自棄の行動を決意します。止めようとした人質の一人を殴り倒して車を運転させ、着陸していた二機のジャンボ・ジェット機を手榴弾で爆破して、人質もろとも壮絶な最期を遂げます・・・。
 (飛行機というやつは、爆弾など積まなくても大量殺人兵器になりうるのです。911をお忘れなく)
 生き残った人質たちの、死んだ娘を「革命女性」と口々にほめたたえる場面で幕となります。
 「あの娘さんはよってたかって殺されてしまいましたが、ヴィデオに映っているかぎりのことでは、あれは本当に有ったことでした。国家もね、それを無かったことにはできないでしょうよ。(すべてのテレヴィ受像機に、静止したまま、われわれの主人公のクローズ・アップの画像が映っている。幕、あるいは溶暗)」
 
 ・・・ストックホルム症候群のおそるべき実例と、マルクス・レーニン主義のマインドコントロールの根深さと、自爆テロの悲惨さをアイロニカルに訴えた作品といえるでしょう。
 え、違う?
 どこが?