核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

江戸川乱歩 『宇宙怪人』(光文社 1953)

 以前にも何回か言及した、少年探偵団シリーズの異色作です。
 フランス、アメリカ、ソビエト、イギリス、中共と世界各地を騒がせた円盤が、ついに日本にも出現します。
 はたして宇宙怪人の正体とは。賢明なる読者のみなさまにはもうおわかりとは思いますが、一応白字でネタバレを。
 
 はいはい二十面相二十面相。この作品の時期には怪人四十面相と名乗っていますが、結局定着しませんでした。
 では恒例の、「巨人と怪人の対決」を。
   ※
 「おれは、世界じゆうのなかまと、れんらくして、宇宙怪人の大しばいをうつた。(略)
 おれたちは、悪ものだ。世界じゆうの警察に、にらまれている悪ものだ。だが、戦争というものは、おれたちの何百倍、何千倍も、悪いことじやないのか! え、諸君、そうじやないか。
 世界各国の政府や軍隊は、いくど戦争をやつても、こりないで、何百万という、つみのない人間を殺しても、すこしもこりないで、まだ戦争をやろうとしているじやないか。おれたちが、悪ものなら、そんなことを考えているやつは、おれたちの万倍も、悪ものじやないか。
 やつらが、地球の上でいつまでも、けんかばかりしているのは、この地球のほかに、世界はないと、思つているからだ。やつらの目をさますには、宇宙の星の世界から、大軍勢が、おそろしい科学の武器をもつて、せめよせてくることを、さとらせてやればいい。そうすれば、、地球の上のけんかなどよして、宇宙のことを、考えるようになるだろう(略)
 せまい地球の上のけんかなど、よして、大宇宙に目をつけたらどうだ。え、明智先生、四十面相の考えは、まちがつているかね。」
 (172~173ページ)
   ※
 
 大演説もむなしく、明智探偵からは、「こんな子どもだましでは、世界じゆうの人を、感心させることはできないよ」と一蹴されてしまいます。
 エラスムス村井弦斎の宇宙人論は、「進歩した宇宙人の目から見られたとすれば、戦争にあけくれる地球のありさまは恥ずかしくないか」という宇宙人性善説だったのですが、宇宙人を「おそろしい科学の武器をもつて、せめよせてくる」仮想敵と想定し、それに対する団結を訴えている点が、四十面相の平和論の独自性といえます。羞恥心よりも恐怖心に訴えるほうが、より即効性のある平和主義かもしれません。
 四十面相や明智探偵も戦争を体験している世代ですし、このテーマは大人向けの小説でじっくり書くべきだったかもしれません。おそらくはエラスムス江戸川乱歩を読んだ上で書かれた、三島由紀夫の『美しい星』もいずれ紹介します。