核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

「文学局外観」 『早稲田文学』1898(明治31)年6月

 村井弦斎といえば、「婦女子向け」というのが同時代(明治20~30年代)の一般的な評価です。具体的にはどう好まれていたのか、その貴重な証言がこれです。
 『早稲田文学』誌の、文学の専門家ではない方々へのインタビューを集めた「文学局外観」の一つ。  「某地方紳士の女」さんの発言。『早稲田文学』がわざわざ坪内逍遥への批判を捏造するとは思えないので、信憑性はあります。かっこ内のふりがなは原文、それ以外の注は引用者です。

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 (前段略。田舎にいるのであまり芝居が見られず、代りに小説を読んでいるとのこと)
 紅葉のは見た事はございません、逍遥のはどつちかと申すと嫌(きらひ)な方で、泉鏡花?、それも存じません、浪六?、それも見ませんのでございます、麗水のでございますか、あの方のは何でございましたか、昨年の夏自分(引用者注 原文のまま。時分か)一つ見た事がございましたが、どうもあまり何(なん)でございました、
 私は弦斎居士が一番大好でございます、弦斎居士のは誠に読んでをりまして、あゝ為になると存じます時もございます位で、お転婆なんどゞ言ふ譏(そしり)があつても体育と言ふ以上は、遊泳(およぎ)や体操をやれなんと書いてございますもの、はい始終『報知新聞』は取つてをります。『日の出島』はどうもよくまあ続きますが、本当に面白うございます、あの雲岳女史の言ふ事なんと言ふものは?
 『新橋芸者』も読みましてございます、然し『日の出島』が何でございますか、私には一番面白いと思ひます、
 それに万朝の日曜の懸賞小説(傍点)が誠に面白うございます。あれはちやあん(傍点)といつも切抜いて取つて置きます位で、誰にも見せずに一人で取つて置いては読みますのでございます。
 それから『一葉全集』は初版の時買つて、あれはいつ見ても飽きません、それにいくつも中にございますから、あれを読んだり此を読んだりいたします、『たけくらべ』は宜しうございますね、『にごり江』もあのお力などは誠に好うございます事ね、『十三夜』は誠に可哀想で私はあゝいふのが好でございます、はい、どうかすると一人で泣きます時がございますの、
 柳浪のも好(すき)で読みますが、あの人のは何だか凄(すご)うございますね、こなひだ川上座の芝居の『畜生腹』を見ましてございますが、あの二子の女の方を殺す所を見ますと、胸がどきどき(原文は踊り字)いたして参りまして変な気持になりました、
 『新小説』、あれも時折(ときおり)拝見いたします、露伴?へえ、存じません、何しろ只今の所では弦斎居士が一番上手だと私は思ひますのでございます、(264~265ページ)
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 局外というわりにはよく読んでます。尾崎紅葉(『金色夜叉』はもう連載されてるはず)や幸田露伴は読んでないみたいですけど。
 明治文学史上最強のヒロイン、雲岳女史についてはいずれじっくり語らせていただきます。メインヒロインではなくサブヒロイン、ドラえもんでいうならしずかちゃんではなくジャイ子に相当するキャラです。連載開始当初はギャグ要員だったんですけど、準主役にスピンオフしていくあたりも似てます。
 遅塚麗水が昨年(1897年)の夏に書いた、どうもあまり何な出来の作品も気になるところです。