今回は固い話をします。
私にとっての文学研究とは、「戦争や差別をなくすために、文学には何ができるか」を探究することです。
研究対象はおおむね二種類に分けられます。
第一類は、戦争を阻止・予防するために書かれた文学作品群。明治の木下尚江、古代ギリシアのアリストパネスやデモクリトスなど。時期を限定すれば矢野龍渓や福地桜痴、ごく一部の作品に限定すれば村井弦斎や遅塚麗水もここに含まれます。
これら平和主義文学の研究が私の本来の専門なのですが、手放しで礼賛するのが目的ではありません。それらの作品にも問題は多々あり、批判すべきところは批判した上で、より生産的で、なおかつ実現可能な平和主義を打ち立てていくのが私の研究です。詳細はいずれ電子化される博士論文にて。
(追記 大江健三郎は未来小説『治療塔惑星』では戦争を美化していますが、現実の戦争を美化してはいませんでした。訂正します)
これらの作品についても、罵倒するのが目的で研究しているわけではありません。戦争というのは何らかの理由があって起きるものであり、戦争を美化する文章にだって一部の理が含まれていることもあるのです(確かに、一部の理さえない戦争礼賛もありますが)。その「一部の理」がなぜ人々の支持を得たのか、それに平和主義側はいかにして対抗するべきか。それを探るのが、第二類を研究する目的です。