『報知新聞』1897(明治30)年1月12日(一)面。小説『日の出島』作中の自称哲学者が馨少年に語る「文学魔界」論の一部です。
2012年現在では知られていない作家が大半ですが、文学史の資料としてアップロードします。
まとめて論じられている作家評を要約すると、
森鷗外 鶴のお吸物。小胆な文学者は義理としても褒め奉らざるを得ない。
山田美妙 鍋焼饂飩(なべやきうどん)。好いのに当ると美味いが少し気が引ける。
村上浪六 唐辛の煮付。人を感動させるというより人の感情を刺激する。
遅塚麗水 小説全篇は感心せんが一回や二回は白玉玲瓏たるものが出来る。
嵯峨の屋おむろ 無邪気。天真爛漫。誠実。
二葉亭四迷 魯国小説を訳出されるが氏ほど原書に忠実なる人はあるまい。
川上眉山 餡掛豆腐(あんかけどうふ)。餡(文)の味で食へる。
広津柳浪 章魚の三杯酢(たこのさんばいず)。酸い所に味がある。
須藤南翠 鮫の切身(解説なし)。
饗庭篁村 鰹節の切手(解説なし)。
石橋忍月 土用中の堅餅。黴を削り去つてツケ焼にでも仕て食うと中々美味い。
・・・遅塚麗水は構成力が乏しい、とは私もつねづね思っていますが(小説の体をなしていない作品も多いのです)、近未来サイバーパンク「電話機」のラスト二話はまさに白玉玲瓏です。ぜひ復刻してほしいものです。