第一、文章を愛づる眼 (依田)学海など。古風の学者に多い。
第二、事柄を面白がる眼 最も下等の読者。(黒岩)涙香物・(村井)弦斎ものの愛読者。
第三、感情に耽る眼 (尾崎)紅葉一門の小説。猫の心中話にも婦女子は泣く。
第四、模型的性格を見る眼 時代小説。昔でいう気質物。(村上)浪六・(饗庭)篁村の小説。
第五、観念の見えたるを喜ぶ眼 「観念小説」。此の頃の新流行。理屈ずきの批評家を喜ばす。
第六、全き人間を見んとねがふ眼 今日の我が小説界にはなし。(幸田)露伴の作中幾分かは近い。
・・・最も下等の読者より一言。私はものごころついた時からの次回予告フェチなのです。
※
手に汗を握りてこの先はどうなるかどうなるか(原文踊り字)に釣られ行く、講談師の「明晩」、新聞物の「以下次号」、馬琴流でいへば「又いか(原文漢字。「い」は「甚」。「か」は「麻」の下にタンヤオのヤオ)なる話説かある、そは次の巻に解分くるを見て知りかねし」など、
※
そして抱月は弦斎ものの特徴を、「善だま悪だまの配合至極都合よく出来居るため欲深き読者が覚えず其の事件中の善人に成りすまして役者とゝもに気を揉むたぐひのおもしろみなり」と分析しています。ありがとう。最高のほめ言葉だ。