伊藤正博訳。
私はフロイトを読んで納得できたことが一度もないのですが、今回もそうでした。
だいたい、フロイトのメランコリー観は次の一節に集約されるようです。メランコリー患者の自己非難は、本来の対象から離れて患者本人へと転換されたものだと。
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自分の夫はこれほどにも役立たずの妻に拘束されていると言って、これ見よがしに済まながる妻は、本当は、役に立たないということがどういう意味で考えられているにせよ、夫が役に立たないことを告訴している。(略)彼らが自分について口に出すこきおろしはすべて、根本的にはある他者について言われているのだから。
(280ページ)
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・・・そういうタイプの症状があることは認めます。夏目漱石『行人』のお直とか、久米田康治『さよなら!絶望先生』の加賀愛とか。私自身、他人を正面きって批判する勇気が持てなかったばかりに、そうしたヒステリー的な精神状態に陥ったこともあります。