核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

田河水泡 「のらくろ二等卒」(『少年倶楽部』1931(昭和6)年1月号)

 『のらくろ』という作品を、戦争礼讃か反戦か、という二分法で割り切るつもりはありません。この第一話にしても、単純に軍隊を美化した話ではないのです。
 どちらかというと、動物に魂はあるかという、デカルト的な問題に関わるような。「のらくろ」という作品は、犬の軍隊が存在する(つまり、犬には魂がある)という大前提で成り立っているわけですが、では犬以外の動物の魂はどうなるのか。
 
 
 まず一コマ目。「猛犬聯隊 のらくろ二等卒 田河水泡」と三行にたて書きされた題字の横に、二等卒(黒地に星一つ)の階級章の首輪をつけたのらくろの敬礼姿。やせたロバのような見た目で、基本的に四足歩行。後のふくよかなのらくろとは別物の感があります。
 「私は、のら犬の黒、つまり、のらくろといふ者です。兵隊になって大いに活動したいのです」
 そして炊事当番になりますが、
 「さかなだって生きものだ、おめおめ食はれてたまるものか」
 とおかずに抵抗され、逃げられてしまいます。「せめて一匹食ひたかった」との発言があるので、のらくろがわざと逃がしたのではありません。
 魚を追ったのらくろはワニに呑み込まれてしまいますが、「どてっ腹へあなをあけてやるぞ」と脱出し(一寸法師ですね)、魚を取り返します。ワニの涙目が印象的。
 「よろしい 今日からお前を二等卒にしてやる のらくろ二等卒である」
 とのブル聯隊長のお言葉で終わり。
 
 
 軍隊批判とかいう以前に、痛ましさを感じさせる作品です。