饗庭篁村・幸田露伴・正岡子規・尾崎紅葉・大橋乙羽・川上眉山・徳富蘆花・大町桂月・田山花袋・遅塚麗水・与謝野鉄幹・木下杢太郎・北原白秋・平野万里・吉井勇・小島烏水。1897(明治30)年前後の名だたる紀行文を集めた一冊です。
村井弦斎の言う、理学的で文明流の紀行文という面では、小島烏水(1873~1948)が抜きんでています。横浜正金銀行に勤務するかたわら日本各地を旅行・登山し、ロスアンゼルス支店長に栄転してからはヨセミテ渓谷に遊ぶなど、仕事と趣味を見事に両立させた人です。
「このたびは霧が無かつた、紫の花咲くクカイ草、蘭に似た黄色の花を垂れるミヤマヲダマキが、肉皮脱落して白く立つてゐる樅の木を、遠く見て、路傍にしなやかに俯向いてゐり、熊笹が路には多い」(「白峰山脈縦断記」(1911 上掲書326ページ)といった調子で、これ以前の紋切型の美文調とは明らかに違う、理系な文体で書かれています。こちらに理解するだけの植物学の知識がないのが惜しまれます。
巻末の年譜によると烏水は1896(明治29)年にすでに紀行文「西湘山水」を『文庫』誌に寄せていたそうで、もしかしたら『日の出島』よりも前に「文明流の紀行文」を書いていた可能性もあります。楽しみです。
2023・1・29追記 他のメンバーはともかく、北原白秋を「名だたる」なんて書いたのは訂正したいです。大学院時代にきちんと北原白秋について学んでおかなかったことを悔やんでいます。