核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

チャールズ・エドワード・ストウ著 鈴木茂々子訳『ストウ夫人の肖像』 ヨルダン社 1984(原著1889)

 『アンクル・トムの小屋』の作者、ハリエット・ビーチャー・ストウの、息子による伝記です。
 『アンクル・トムの小屋』という作品が火をつけた奴隷解放運動が、南北戦争を引き起こした(リンカーン談。冗談まじりにもせよ)ことについて、作者自身はどう思っていたのか。そのへんを知りたくて読んでみました。
 以下、「第16章 南北戦争 一八六〇-一八六五」より、ストウ夫人の言葉を引用します。
 
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 「南部における過酷な抑圧を黙認し、助長した罪のために、深く、はげしく苦しむことは、南北を問わずわが国民に課せられた神の意志である。虐待と強奪という悪辣な手段を用いて得た不当な富は、戦争という代金で支払われねばならない」
 (431ページ)
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 ・・・他にもいくつか書簡が引用されていますが、趣旨はどれも同じです。奴隷制廃止は「神の意志」であり、南北戦争奴隷解放のための聖戦であると。
 
 「リンカーンはゆっくりし過ぎています。もっと早く推進させるべきです。(略)不意をついたシャープな治療こそ救いです」
 (441ページ 1863年7月31日書簡)
 
 「共和党政府(引用者注 北部リンカーン政権)は、陸海軍を組織し大規模に軍事活動を行うという不慣れな苦労を重ねて、全く合憲的な方法で奴隷制を打ちこわし得ることを実証する仕事に着手しました」
 (454ページ 1863年 『アトランティック・マンスリー』誌に載せた「回答」)
 
 ストウ夫人の息子の一人(おそらく著者チャールズの兄)は義勇兵として南北戦争に参加しており、内心での葛藤はあったのかもしれませんが、書簡やエッセイからは、戦争への批判は全く読み取れません。
 性急に批判するつもりはありません。もし批判するとしても、『アンクル・トムの小屋』を熟読し、南北戦争について調べた上になるでしょう。ただ、私の原則としては、「正義の戦争」というものの存在に疑問を持っていることは、ロールズを論じた際にも書いた通りです。