核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

遅塚麗水『電話機』研究史に新たな展開

 私も以前に扱いました、明治の知られざる未来小説『電話機』を新たに研究なさっている方がいるようです。
 この機会に、同作品への注目が集まってほしいものです。いずれは岩波文庫とか…。
 以下、阪神近代文学会サイト(http://d.hatena.ne.jp/hanshinkindai/)より引用。

   ※
第50回 阪神近代文学会 2015年度冬季大会

【 日 時 】 2015年12月12日(土)13時30分

【 会 場 】 神戸大学文学部・B棟3階331教室

☞ 会場へのアクセス

神戸大学文学部・六甲台第2キャンパス(神戸市灘区六甲台町1-1)

徒歩:阪急「六甲駅」から約10分。バス:阪神御影駅」・JR「六甲道駅」・阪急「六甲駅」から、神戸市バス36系統乗車「神大文理農学部前」下車、徒歩4分

 (略)

文学における電話前史―遅塚麗水『電話機』に描かれた電話―

名古屋大学大学院博士後期課程1年黒田翔大

遅塚麗水は『電話機』を一八九〇年九月三〇日から同年十月八日まで、全二十六回に渡って『報知新聞』に連載した。明治期において未来を示唆する小説は多く登場するが、『電話機』の発表は電話事業が開始される一八九〇年一二月一六日に先立ってのことであり近未来を舞台にしている。

電話事業は順調にスタートを切ったわけではない。電話加入者を募集するのに苦労し、想定していたよりも少ない加入者で始まった。それは、当初において電話の利便性を受け入れることに対する障害があったからである。例えば電話は非常に高価な品物であったため、電話に加入するよりも丁稚を雇う方が安上がりであった(そのため電話料金を引き下げることになる)。しかも、電話は声しか届けることができないが、丁稚であれば荷物を届けることも可能である。また、電話で相手と繋がることによって、コレラなどの伝染病までもが伝わって来てしまうのではないかという迷信もあった。これらの理由が電話普及の妨げに繋がることになった。

以上のような電話を敬遠する理由は、電話の料金面であったり科学的根拠の無い迷信であったりするのだが、電話が人々の生活に普及することによる影響をより広い視野を持って指摘したのが遅塚麗水『電話機』である。『電話機』では電話が普及した近未来社会の問題性について触れている。その中でも特に、電話で会話をする際に媒介する必要のある電話交換手の存在に焦点を当てている。交換手が電話の接続を恣意的に行うことにより人間関係に亀裂が入ってしまう。また、交換手の存在のみに還元することのできない問題も扱っている。

電話事業が始まる以前において、遅塚麗水は『電話機』の中で電話の様々な問題性を指摘している。それは、局所的でも迷信めいたものでもなく、人々の生活全般に関わる具体的かつ現実性を持つものである。本発表は、電話事業開始以前に執筆された『電話機』の持つ電話に対する文学的想像力を明らかにすることを目的とする。
   ※