核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

伊藤宜広『現代経済学の誕生 ケンブリッジ学派の系譜』中公新書 2006

 マーシャル、ピグー、ロバートソン、ホートレー、ケインズの5人を、列伝形式で書いた経済学史です。
 今回は1918年前後の貨幣論に的を絞って読んだのですが、ホートレーが目にとまりました。

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 また貨幣と信用の関係を考察する上で、貨幣の起源に関するホートレーの説明は示唆的である(5)。伝統的な説明では、貨幣の由来はバーター(物々交換)経済における直接取引の困難に見出される。すなわち、貨幣の存在しない未開社会では、交換が成立するためには相手が自分の提供する物を欲し、かつ、自分の欲するものを相手が提供できるという欲望の二重合致が必要となる。このような困難を解消するため、特定の商品が交換媒介物として貨幣に選ばれる。これが貨幣の起源とされる。信用はあくまでその派生物として捉えられる。
 交換媒介物が存在しなければモノとモノとの直接取引にならざるをえないというのは一見、自明と思われるが、ホートレーはそうではないという。ローンによる分割払い、あるいは「ツケで払う」といった状況を想起するとわかりやすいが、買い手が対価として提供するものをもっていなくても取引は可能であり、その場合に発生するのが債務である。ホートレー・モデルではまず債権債務関係という信用にまつわる事象があり、貨幣はその債権債務関係を決済する手段として後になって導入される。
 (144~145ページ)
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 注(5)および222ページの年表によると、ホートレーの『通貨と信用』は1919年。ピグー「貨幣の価値」(1917)ともども調べてみます。