核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

外池力「トドロフの思想と他者系列」(『政経論叢』 77(5・6), 749-775, 2009-03 )

 トドロフという方、ただの構造主義者ではありませんでした。思想家です。
 外池論文より、スターリン主義全体主義)について。文中の「コルイマ」とは、アウシュヴィッツに匹敵するスターリン政権下の強制収容所だそうです(ウィキペディアより。不覚にも最初から知りませんでした)。
 
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 概して,我々はこういう真実を認めたがらない。我々各人には,悪は我々
の外にあり,悪を犯した化け物と共通点は何もないと考えることがはるか
に都合がよい(現代でも,散発的に起こる「異常な」犯罪に対し,同じ反
応が見出される)。我々がコルイマやアウシュヴィッッを忘れたいのは,
収容所の悪が人類と無縁でないことを見るのを恐れてである。またこの恐
れが,我々に善の勝利するまれな物語を好ませる。
  ツヴェタン・トドロフ(宇京頼三訳)『極限に面して:強制収容所考』法政
  大学出版局,1992年,183ページ。
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 そうした単純な善悪二元論、悪はわれわれの外側にある無縁なものだという思想が、まさにスターリン主義のような悪を生み出しているとの思想です。
 トドロフはそうした善悪観から、「平和」、「正義」、「平等」といった大仰な語に警戒感を抱くとも述べていまして、(外池論七五八ページ)、当方としては「平和」を大仰な言葉ではなく、つつましい目標と思っていますが、トドロフの言おうとすることには私にも共鳴できるものがあります。
 「善の勝利するまれな物語」への志向が危険なものだとしたら、トドロフ人間主義(悪は他人事ではないという思想)にそった物語とはいかなるものか。同論文ではそこまで立ち入ってはいませんでした。トドロフの著作をじかに読みたいものです。