核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

松本清張『波の塔』

 もっと早く出会いたかった一冊です。夏目漱石の『明暗』や、横光利一の『上海』に傾倒し、主人公がころころ変わり、視界がぐるぐる移るような立体的な小説に憧れていた二十代の私だったらさらに楽しめたはずです。もちろん、今読んでも楽しめました。

 凄惨な連続殺人とかが起きるわけではなく、不倫男女一組を含む複雑な人間関係が、それぞれの視点から三人称で描かれます。旅行中の若い女性→休暇中の若手検事→その不倫相手の謎の女性→その夫の情報ブローカーといった具合に。やがて、彼らはR省の不祥事をめぐる、巨大な流れの中に巻き込まれていることが明らかになっていきます。

 発表媒体は『女性自身』だそうですが、女性二人の視点を交えたことで、清張の他作品よりも立体感がましていると思います。まあ、偶然の出会いを多用しすぎとか、何も富士の〇〇に行くほどのことじゃないんじゃないかとか、細かい疑問はありますけど。