核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

対談の削り料を要求する小林秀雄

 対談記事というものは対談したままを記録しているのが普通ですが、小林秀雄の場合は違いました。湯川秀樹との対談でも、『新潮』誌記載と小林秀雄全集記載のものが多々違うことは当ブログで指摘しましたが、終戦後の正宗白鳥との対談もそのようです。

 

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 あれは君、ひどい対談なんだよ。戦後の酒なんかないときだよ。そのときに、本屋がウィスキーを一本持ってきたんだ。はじめて飲むんだ、スコッチなんて。しゃべっていてぼくは一本あけちゃった。(略)数日たって対話録なるものが来たよ。酔っぱらっていて、読めたものじゃないよ。(略)だからこんなものやめろと言ったんだが、相手はやめないと言うんだよ。出すなら出してもいいけれど、俺は失礼な言葉は削る。出すなら、その削り料を持って来い、そうじゃなければ俺はいやだ、と言ったんだ。

 小林秀雄大岡昇平「文学の四十年(対談)」第五次『小林秀雄全集 第十三巻 人間の建設』新潮社 平成十三年 二三四ページ

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 正宗白鳥への「失礼」は気にしても、出版社への失礼はまったく気にしていないようです。終戦後の貴重なスコッチは飲む、読めたものじゃない対談はする、しかも「削り料」を出せとはあきれた話です。