核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

矢野龍渓 「報知異聞 浮城物語」

 郵便報知新聞社長、矢野龍渓自らが社の経営危機を救うために書いた、スチームパンク海洋冒険小説、「報知異聞 浮城物語」(郵便報知新聞 1890(明治23年)1~3月)をお届けします。
 
 主砲は36センチ。トン数6500トン。20ノットに8300馬力と、当時の世界最強クラスのスペックを持つ、南シナ海を横行する謎の海賊船(ってレベルじゃね~)、「浮城」。それは清国(中国最後の王朝です)が欧州の有名造船会社から購入した最終兵器でした。
 明治政府の統制を逃れ、海外に新天地を求める日本人冒険家の一団は(それぞれ狙撃・電気学・通訳などのエキスパートぞろいです)、「浮城」を無傷で強奪し、海上国家「海王国」を建設しようとするのですが・・・。
 
 文章は漢文調でいささかとっつきにくいのですが、森鴎外の「舞姫」(これも1890年です)よりははるかに読みやすいかと思います。特に注目すべきは実験的なふりがなで、「大破轟沈」に「こっぱみじん」みたいな感じのルビがついていて、二ヶ国語放送みたいな気分が味わえます。
 例によって例のごとく、「舞姫」を絶賛した批評家たちは「浮城」を酷評しています(鴎外自身は「浮城」をそれなりに評価しており、「話せばわかる」犬養毅なんかと一緒に単行本の序文を書いてます)。
 特にひどいのが内田不知庵(後に内田魯庵と改名)で、「文学上半銭の価値なし」(1銭は1円の百分の一です)「筆を絶つにしかず」とまで断言し、おかげで「浮城」は前半の「東京~ジャワ島篇」までで中断し、予告されていた「インド洋~マダガスカル篇」は永久に書かれることはありませんでした。
 いったい、批評家の存在意義とは何でしょうか。