核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

「雨の木を聴く女たち」「新しい人よ眼ざめよ」「静かな生活」

 いずれも『大江健三郎小説 7』収録の連作短編です。
 想像力の文学を提唱する大江ですが、彼の本領はこうした私小説(「ししょうせつ」または「わたくししょうせつ」。一人称で作家自身のことを書いた小説)にちょっとだけ「話を盛った」方向にあるのではないでしょうか。
 ゼロから未来小説をつむごうとした『治療塔』の破綻ぶりを見ても(私は同作品の冒頭部分だけはすきなのですが。KSシステム万歳)、実は想像力の作家じゃないんじゃないかと思います。
 
 「雨の木(略)」の中では、「美人OL殺人事件!赤い水着の女の誘惑・・・」といった副題をつけたくなる「泳ぐ男」が異色作でした。まさか大江健三郎っぽい人が推理を始めるとは。
 「新しい人よ(略)」は、イーヨーこと光さんが家族と葛藤しつつも成長していく姿を描いた私小説。発作を起こしたり暴れたりと、たぶん小説には書けないんだろうなと思わせることも多そうな光さんですが、独特のユーモアセンスで周囲をなごませることも多い方です。「オデキ感激!」と「インゲンしんぼうだ」には笑わせてもらいました。
 (もとネタはなつかしのCM.たしかハウスバーモントカレーと日本観光)
 もちろん、伝説の名セリフ、「イーヨーは、もういません!」も忘れてはいけません。
 「静かな生活」は、大江家長女のマーちゃん(っぽい人。大江作品はすべて実話とは限りません)を主人公兼一人称の語り手とした連作。前に彼女をオーちゃんの妹とか書いてしまいましたが、実は姉でした(光さん、マーちゃん、オーちゃんの順)。「泳ぐ男」のモデルっぽい人がまた現れて、このピンチを乗り切ることができるでしょうか?(光さんの口癖。相撲中継で覚えたらしい)な状況に陥りますが、家族の絆で見事に乗り切ります。
 
 こういうほんわか系の小説だけ読んでると、私も大江健三郎との合意点が見いだせそうな気分になります。
 ダークサイド大江が読みたい方は、『最後の小説』をどうぞ。近日中にご紹介します。
 
 ※「新しい人よ眼ざめよ」が正しい題名でした(「目覚めよ」ではなく)。訂正します。2011・6・14