核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

『プルタルコス英雄伝(上)』「ペリクレス」―パルテノン神殿着工編

 ギリシアといえばパルテノン神殿(最近は経済危機のニュースばっかりですけど)。あの丘の上の、大理石の柱がいっぱい立ってるあれです。ちくま文庫プルタルコス英雄伝(上)』(1987)の「ペリクレス」伝より、パルテノン神殿建設のいきさつを紹介します。
 
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 アテナイには最大の歓喜と装飾をもたらし、他〔国〕の人々には大変な驚愕を与え、また語り草ともなっているあのギリシアの威勢と昔日の繁栄が決して偽りでなかったことを今なお立証しているただ一つのもの、それは神に捧げられた建築の事業である。これこそペリクレスの政敵が彼の政治的事業の中で最もけなし、民会の席で次のように騒ぎ立てて非難したものなのである。(馬場恵二訳。275~276ページ)
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 なんで非難されたのかというと、対ペルシアの同盟諸国の資金を流用して建造費にあてたんですね。仮にアメリカがイラン政策の名目で日本とかの同盟諸国から集めた資金を、自由の女神の補修に使ったらどういうことになるか。それに匹敵する無茶を、ペリクレス将軍はやらかしたわけです。
 
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 それに対してペリクレスは国民に教示して言った。われわれは同盟民のために戦いペルシア勢をしりぞけているのであるから、なにも同盟民に資金〔出納〕の明細を示す義務はないのだ。彼らは馬一匹、船一雙、重装歩兵一名すら提供するわけではなく、ただ醵金(きょきん)するだけである。だからその金は出した人々のものではなく、代償さえ与えれば受け取った側のものだ。〔アテナイの〕国が戦争に必要なものを充分に備えおわった上は、その余剰を次のような事業にまわすべきである。その事業とは、それが完成の暁には永遠の栄光が、途上においては刻々繁栄がもたらされるものなのである。(276ページ)
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 なんというジャイアニズム。劇場版ではなく、「税金鳥」とか「ギシンアンキ」のジャイアンを思わせる詭弁です。
 ただ、「事業」という訳語が使われているように、この神殿建設は国民に職を提供する社会政策(景気対策?)の一面も持っていたようです。国王や宗教家の個人的な虚栄のためだけに作られた建造物と違うところです。