エラスムス著『格言集』の一五〇八年版の第三〇〇一番、Dulce Bellum Inexpertis(「戦争は体験しない者にこそ快し」。質・量ともにことわざ辞典の一項目というレベルを超えた、堂々たる平和主義理論です。日本語訳にして67ページ分。
ひとまず二宮敬氏の訳文と章立てをもとに、少しずつ要約して紹介します。
〈格言〉
この格言はピンダロス(古代ギリシアの詩人)の時代からあるが、今日(16世紀ヨーロッパ)では、異教徒のみならずキリスト教徒、戦争を知らぬ若者のみならず老人、民衆のみならず王公や神学者までもが、戦争を煽り立てている。
〈人間の姿〉
自然あるいは神は、人間を爪や牙や鱗を持たない、弱くやさしい姿にお造りになった。人間とはこの地上でただ一種、たがいに助け合えばますますたがいに離れがたくなる、というあの友愛の実現のために生を享ける動物ではないかと思われる。
〈戦争の図〉
戦争による道徳の荒廃について。戦争の結果として、人の信頼を軽んじる傾向が生れ、法をあなどる風潮が起こり、好んで犯罪に走ろうとする気分が瀰漫する。
〈獣以下のおこない〉
動物は、たとえ猛獣であっても、自分たち同士でも牙はむかないものだ。また、動物は、戦うとはいっても、飢餓のあまりか仔が危険にさらされた場合のことではないか。しかるに人間といったら・・・(以下、人間に固有の戦争という現象を描写)。
これでも大事なとこだけ抜き出したつもりですが、まだ3分の1程度です。