核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

永井荷風『断腸亭日乗』 より 日本文学報国会への批判

 このところ永井荷風の日記『断腸亭日乗』を読みふけっています。戦時下でも時局に便乗しなかった文学者の、生活と意見をつづった貴重な資料です。
 まず有名なところから引用してみます。1943(昭和18)5月の項より。
 
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 ・五月十七日。細雨烟の如し。菊池寛の設立せし文学報国会なるもの一言の挨拶もなく余の名を其会員名簿に載す。同会々長は余の嫌悪する徳富蘇峯(引用者注 一般的には「徳富蘇峰」と表記される人物)なり。余は無断にて人の名義を濫用する報国会の不徳を責めてやらむと思ひしが是却て豎子をして名をなさしむるものなるべしと思返して捨置くことゝす。(以下略)
 (永井荷風断腸亭日乗 五』 岩波書店 昭和56 346ページ より)
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 機関誌『文学報国』は以前に読破したのですが、永井荷風の名があったかどうかは未確認でして、いずれウラをとっておきます。荷風にはぜひ、日本文学報国会の不徳を責めて欲しかったものですが、安全な時代にいる人間がそれを言うのは酷かもしれません。「隠れて生きる」のも、便乗者よりはずっと高潔な生き方です。
 なお、(以下略)とした箇所には、配給の玄米をびんに入れて棒でとんとんして精米する、戦時下の映像でよく見られる光景が描かれています。さらに五月二十三日の記事には図入りで。せっけんもなくなったため、米ぬかも再利用していたそうです。