この河内紀(かわちかなめ)氏の文章ははじめて読んだのですが、弦斎の作品をたんねんに読み込んでいる印象を受けます。
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はっきりと婦人読者を意識して家庭小説を書きはじめた弦斎の小説に登場する女性たちが、しかし滑稽なほどに明るく元気に満ちあふれ、いかにも颯爽(さっそう)としているのはなぜなのか。
何人かの弦斎式女性を紹介しよう。(略)
リッチメン氏の娘、マリヤ。庚寅新誌に連載(明治二十六年二月ー三月)された「大発明」に現われる米人女性。
親から相続した一千万ドルの財産を、人類の幸福に寄与する発明をした人物に与えるという広告を新聞に出したオレゴン州のマリヤは、その懸賞に「軍事上の発明の如きは如何に新奇と雖も決して採らざるなり」という条件をつける。
(26~31ページ)
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・・・「大発明」は近代デジタルライブラリーでも読めるのですが(短編集『文車』収録)、たしかに軍事上の発明は人類の幸福に貢献しないので決して採用しない、との一節がありました。
『食道楽』ばかりが注目されがちな弦斎ですが、こうして女権論者・平和主義者としての弦斎に注目してくださった方がいるのはありがたいことです。もっと早く読んでおくべきでした。