結末近くの軍備廃絶論だけ先に紹介してしまいましたが、半ばの日露戦争編では結構温度差があります。
※
二月の初めといふに日露の平和が破れて、大佐(引用者注 ヒロイン小夜子の義父)は直ちに朝鮮方面へ出征する事となつた。
(略。大佐から少将に昇進した父の戦死を経て)
驚天動地の大戦も、我が日本軍の大勝利に帰して、東洋永遠の平和は茲(こゝ)に恢復し、(略)出征の将士が戦捷の名誉を担つて凱旋するを見るにつけ、栗山家の人人は誰しも少将の事を懐(おも)はない者は無かつた。
村井弦斎『小松嶋』(改造社『現代日本文学全集 歴史・家庭小説集』より)
※
結末での勇の発言とは異なり、ここでは戦争や軍備への批判は見られません。
どうもこの小説の執筆中(第一次世界大戦進行中)に、弦斎の戦争観が変化したような気がしてなりません。もう一度、機会があれば『婦人世界』誌の初出や発言を当たってみます。