14ページにわたる一節を割いて、谷崎潤一郎「小さな王国」のほぼ全文が紹介されています。ただし完全な引用ではなく、いくらか飛ばしている箇所もあります。
その上で、向坂は「小さな王国」を以下のように論じています。
※
この小説の小社会が、何か共産主義的小生活組織の運用の巧みさを導き出したと考えるのは、「子供っぽい」間違いである。この小説には、子供たちの小集団はあるが、資本主義や社会主義や共産主義を問題とする場合に対象とする社会はない。
(略)
谷崎が、この中で、何か社会を描いたものとするならば、谷崎潤一郎は、社会を知らなかったのである。『小さな王国』は、社会である条件をそなえていないのである。そのようなことを考えて、実は、この小説を九州大学経済学部の試験問題にしたことがある。
(30~31ページ)
※
「小さな王国」は社会を描いていない、という主張は、同書のその後にも繰り返し出てきます。続きは明日にでも。