核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

『谷崎潤一郎全集 第六巻』(中央公論社 1958)の伊藤整による解説 その1

 吉野作造の「小さな王国」論を、「今や社会主義とか共産主義といふ事は、理論ではない、一個の厳然たる事実である。」まで引用した後に。

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 この前年の大正六年十月に、ロシアの十月革命が成立してゐたのである。 
 簡単に言へば、この作品は少年の世界に形を借りたところの、統制経済の方法が人間を支配する物語りである。現代社会は必然的に統制経済の社会へと推移しつつある。その統制経済社会で、ある権力のもとに発行される紙幣が、即ち経済上の約束が、人間の生活意識を変へ、人間の価値判断を狂はせるといふ物語りである。谷崎潤一郎の全作品の中で最も特色のある現代社会への批判性を備へた作品と見ることができる。吉野作造がこれを面白いと思つたのは、大きな必然性があつた。
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