「谷崎文学の神髄」(『臨時増刊文藝 谷崎潤一郎読本』1956(昭和31)年3月。
出席者は谷崎潤一郎・伊藤整・武田泰淳・三島由紀夫・十返肇。
「小さな王国」の材料について質問した伊藤整に対して。
※
谷崎 あれはこんど、「幼少時代」に書きましたけれども、あれに似た事実が子供の時、ありましてね、それが頭にあって、それから思いついたんですけれども、あれもぼくのものとしては、ちょっと違ったものですけどね、あれを映画にしたら、ぼくは面白いだろうと思っているんだけれども。
伊藤 あれにほかの材料をちょっと付け足していったらいいと思いますね。あれは現在の小説としても非常に新しい考え方でお書きになっているような……。
谷崎 あれは吉野作造氏から褒められたですよ。
伊藤 そうですか。それは面白いですね。
武田 それは「文壇史」に書かなきゃ。(笑)
伊藤 価値の変動する点が面白かったんでしょうね。経済学のほうからいっても、新しい考え方でしょうね。オーソドックスの経済学からいうと、ああいう考え方は出て来ないんです。わたし、ちょっと習ったことがありますけれども。(笑)
(522ページ)
※
……この部分の注釈には、「谷崎は、政治にも経済学にも関心はないので、畑違いの吉野に褒められても、誇りに思うというより、「何だか分からないけど褒められちゃった」と照れているだけであろう」(546ページ)とありました。同感です。