核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

伊藤野枝「火つけ彦七」に火をつけられた

 伊藤野枝、もっと早く読みたかった。久しぶりに私が求めているタイプの小説と出会えたと感じています。

 被差別部落を扱った作品なのですが、島崎藤村『破戒』などよりもはるかに苛烈な、とにかく救いのない話です。差別と暴力と報復の連鎖。感動というのとは違う、興奮状態がまだ続いています。青空文庫で読みました。

 今日は図書館で『アナーキズム』という本を借りてきて、大杉栄の文章もだいぶ読んだのですが、そちらは好印象を持てませんでした。読後の揺さぶられ感は、伊藤野枝のほうがだんぜん上です。

 偶然ですが、『社会文学』58号の特集は「差別と文学―水平社100年」。論じるのが困難なテーマなのは過去にも経験ずみですが、にもかかわらず挑戦してみたい気がしています。これほどのパワーのある作品でありながら、CiNiiで「火つけ彦七」を検索したところ先行研究なし!遅塚麗水「電話機」論以来、久しぶりに道なき道を疾走できそうです。

 もちろん、伊藤野枝についての膨大な文献を読み込む必要はあるでしょうが、「火つけ彦七」で提示されている問題は、アナーキズム国民国家批判なんかで解決できるものではないと思うのです。もっと根源的な、「なぜ暴力は(例外なく)いけないのか」といった問いを、「火つけ彦七」は投げかけています。