私は伊藤野枝自身の生き方にはどうも共鳴できないのですが、アナキズム研究を専門とする栗原氏は違いました。勢いのある文体で、伊藤野枝への全面的な共感のもとに綴られた伝記です。
題名は野枝の小説「火つけ彦七」と「白痴の母」からとられています。第5章「無政府は事実だ」の、「村に火をつけ、白痴になれ」と題された一節(一五二~一五四頁)で、その二作品のあらすじが記されています。どちらも差別される側から、差別の悲惨さを描いた小説です。差別された者が次は暴力の主体となるという結末は、私には受け入れがたいものですが、栗原氏は著書や小題の題名通り、
「彦七は、この「社会」に火をはなつことで、すべてをなきものに、ゼロにひきもどそうとしていた。野枝は、こういわんとしていたのだろう。みならわなくてはいけない。村に火をつけ、白痴になれ」(一五四頁)
と、その過激な結末を受容しています。そこは意見の分かれるところで、私は自分なりの答えを論文で出したいと思います。